読書録 アルジャーノンに花束を

読書録
アルジャーノンに花束を
ダニエル・キイス

書店に平積みされていて読まないわけにはいかず連れ帰りました。
知能が低い32歳の主人公チャーリィの日記による一人称で展開されていく文章が変化していくのが秀逸。普通は知能は変わらないので、人間は常に同じ一人称で世界を見ている。しかしチャーリィの場合は実験の手術によって頭脳が急激に進歩し、わずかな期間の間に世界ががらりと変わってしまうのだ。

私の息子が第一志望校に落ちてしまってクラスというある集団に身を置いてみてすごく生き辛さを感じてしまい通学を止めてしまった今の状況となんだかとても似ているのだ。
知能指数は人間の脳の特性を1つの側面で測っただけのものに過ぎず、息子が生きづらかったのは知能指数が合わないからとかではなく、新しい集団の中で人と人の生身のやりとりができなかったからなのだ。ただ、息子が新しいクラスに身を置いて戸惑った感覚以上に、チャーリィの自分の知能が向上したことによって世界が違って見えたことでとたんに人生に苦しみが生まれたことに共感してしまった。

知能が向上すると自分の価値を自分で評価し始め、他人の価値も自分で評価し始め、それが苦悩になってしまった。息子の知能は何も変わらないのだけど、新しい環境に身を置くことで自分のコミュニケーションがうまくいかないことを自覚したし、周りの人間が好きになれないことを認識してしまった。つまりそれって、子どもが大人に成長していく時に直面する苦しみだ。

とても悲しいような、人の心って愛おしいなと思えるような、そんな作品だ。

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